書籍・DVD案内
『アメリカはイスラム国に勝てない』
宮田律著(PHP新書)
宮田律著(PHP新書)
『イスラム国の正体』
国枝昌樹著(朝日新書)
国枝昌樹著(朝日新書)
『イスラム戦争・中東崩壊と欧米の敗北』
内藤正典著(集英社新書)
内藤正典著(集英社新書)
中山弘正
私は、明治学院大に勤める前、ある私大で5年ほど教員をしていましたが、
その時、同僚の中に一人だけイスラム信者が居られました。
しかし、信仰の話は全くしませんでした。
『いま、朝鮮半島は何を問いかけるのか 民衆の平和と市民の役割・責任』
内海愛子、中野晃一、李泳采、鄭栄桓著(彩流社、2019年)
星出卓也
朝鮮半島と日本の戦後史を、日本と在日と韓国の歴史学者、政治学者、それぞれの立場から見ると、実に今まで見えなかったものが見えて来る。単に日韓条約などの日韓外交の歴史だけではなく、韓国の戦後史を知る時に、初めて日本の戦後史について見えて来ることが多い。それぞれの置かれた立場から、それぞれのバックグラウンドや視点から見えて来るものを探りつつ今日に繋がる北東アジアを考え、それぞれのアイデンティティーを越えて連帯出来る道を探る。全編、対談の収録であるが、その都度、知りたい資料が的確に挟まれていて、もう一度「戦後史」は本当に「戦後史」であったのか、ということを含めて今の実体を複合的に考えさせてくれる本です。
巻末に掲載されている「日本・在日・朝鮮半島」の年表もとても有益です。
『いま、「憲法改正」をどう考えるか』
樋口陽一著(岩波書店、2013年)
中山弘正
樋口先生には、憲法を扱われた本が何冊もありますが、
この本は2013年5月に第1刷が岩波書店から出ました。
「戦後日本」を「保守」することの意味、というサブタイトル。
中は3部に分かれ、
Ⅰ.〈憲政〉としての戦前と〈憲法〉としての戦後
Ⅱ.戦後憲法史をどう見定めるか
Ⅲ.日本の憲法体験が持つ意味、と展開されています。
日本国憲法がただ敗戦によって「押しつけられ」ただけのものではない、 ということが、内容を追いながら追及されていきます。 われらヤスクニにかかわる者にも、いろいろと教えられるところが多いです。 スタート時から「9条連」の代表の一人でもあられます。
(1500円+税)
Ⅰ.〈憲政〉としての戦前と〈憲法〉としての戦後
Ⅱ.戦後憲法史をどう見定めるか
Ⅲ.日本の憲法体験が持つ意味、と展開されています。
日本国憲法がただ敗戦によって「押しつけられ」ただけのものではない、 ということが、内容を追いながら追及されていきます。 われらヤスクニにかかわる者にも、いろいろと教えられるところが多いです。 スタート時から「9条連」の代表の一人でもあられます。
(1500円+税)
『黄土の村の性暴力・大娘たちの戦争はおわらない』
石田米子、内田知行編(創土社、2004年)
星出卓也
「中国山西省性暴力被害者損害賠償請求訴訟」
(1998年東京地裁に提訴、2003年に損害賠償請求は棄却されたが、
事実認定は全面的に認められた)のための調査報告の集大成。
15年戦争下の中国山西省盂県で起こった
日本軍統治下によって行われた性暴力の実態を、
日本と中国の学者らの長年にわたる
緻密な現地調査によって再現している。
DVD『オレの心は負けてない・在日朝鮮人慰安婦宋神道のたたかい』
在日の慰安婦裁判を支える会 1,800円
星出卓也
慰安婦被害者に対する謝罪請求訴訟を闘った宋神道(ソン・シンド)氏を追ったドキュメンタリー。 訴訟を通して人間への信頼を取り戻してゆく姿が温かく描かれている。 2003年最高裁上告棄却判決にも関わらず、宋から人としての尊厳がより輝いていくのが印象的。 「火が燃えていたら消すのが本当だべ。小泉は、なして火の玉抱いて、火の中飛び込むようなマネすんだ。」(自衛隊イラク派兵決定時) 「戦争は国のためじゃなくて、しないのは自分のためなんだから。」
『カール・バルト 未来学としての神学』
福嶋揚著(日キ販2018年)
星出卓也
カール・バルトと言えば、批評学を受け入れない聖書信仰に立つ立場からは、聖書の啓示論等で考え方の違いも目立つ。ところがバルトから学ぶべきことは非常に多く、本書の3章「未来は自由と愛に満ちている・バルト神学の展開」での「政治的礼拝と抵抗権」は、神の言葉を置かれた時代において読み、語り、告白するということにおいて、大きな示唆を与えているのはバルトが残した大きな財産である。ナチへの抵抗に関して「他者のために生きる教会」の本質を論じ、肥大化した資本主義の悪魔性に鋭く抵抗し、それに代る社会の在り方の先駆的な視座を持っていた。バルトの戦後の戦争に関しての考えの変遷も非常に興味深い。分かり易い解説書。
『カナダの教訓・超大国に屈しない外交』
孫崎享著(PHP文庫2013年1月)667円+税
星出卓也
カナダの国力は米国の10分の1以下。 大国の隣で大国と対峙するのは容易なことではない。 しかしカナダは米国の言いなりにはならず、 もの申す自主外交を貫いてきた。 カナダの歴史には今日の日本が学ぶべきものがある。 それは大蔵大臣の公職を追われる石橋湛山が残した言葉に通ずる。 「後に続く大臣が俺と同じ態度をとること。 そうすれば俺と同じように追放されるが、 それを懲りもせず二度三度と続ける。そうすれば相手も折れる。」 1992年に書かれた復刻版だが今も新しい。
『北朝鮮で考えたこと』
テッサ・モーリス・スズキ著、田代泰子訳(集英社新書2012年5月)760円
中山弘正
日本が朝鮮を植民地にした1910年の頃に、 エミリー・ケンプという女性が「アジアにおけるキリスト教の一大センター」 (教会が39もあった)平壌を含め、満州から来て朝鮮半島を旅行した。 著者はそのルートを記録を参考にしつつ、現在の北朝鮮を旅する。 二重写しに描かれていく北朝鮮。 「北東アジア全体にわきたつ消費資本主義」と「国営貧困」とが 対比されつつ、いろいろ考えさせられる。
『教科書と裁判』
森川金寿著(岩波新書1990年)
星出卓也
3月14日に文科省は 「竹富町が育鵬社の公民教科書を採用しないのは違法状態だ」 と是正要求を下した。 国が市町村に対して直接是正要求を出したのは、戦後初の異常事態である。 事柄は教科書無償措置法違反という法令順守の問題のように装われているが、 事の本質は育鵬社の公民教科書を何としても採用させるという 国の教育への介入、教科書で何を教えるか、何を教えさせないかを 政権が介入するという重大なことが問われている。 この問題は戦後間もない教科書検定論争から家永教科書裁判に至って 戦後史に一貫して戦われた問題である。 家永教科書裁判の弁護人である著者が、 再び学校教育が軍国教育の場となる危険を 裁判闘争の視点から同書で明らかにしている。 「わたくしは力の弱い一市民ですが、 戦争に抵抗できなかった罪の万分の一でも償いたいという心情から、 あえてこうした訴訟に踏切った次第であります。」 (家永三郎氏の東京地裁での原告証言から、1967年7月12日) 1990年の著作ながら、非常に今日的な書である。
『原発を拒み続けた和歌山の記録』
「脱原発わかやま」編集委員会編 寿郎社 1,500円
星出卓也
1960年代に和歌山県の五か所に原発建設計画があった。 若狭湾に集中していた原発を太平洋側にも広げようと紀伊半島がターゲットとなったのである。 関西電力の原発立地をめぐる20年以上の激しい攻防が和歌山で繰り広げられた。 しかし、現在、和歌山県には原発は一基もない。 三重県を含めて紀伊半島は「原発ゼロ」の秘境となっている。 この背後には早くから安全神話の嘘を見抜いた市民たちの抵抗があり、何万、何十万の人々の長年の労苦があった。 1988年に日高原発・日置川原発建設計画が挫折したことがきっかけに、以後の原発新規立地は頭打ちとなり、 この年は日本の原発の歴史の転換点となった。 この書はその長年の戦いの記録であり、「お上」の嘘に二度と巻き込まれまいと抵抗した市民の良心の記録である。
『「国民の天皇」論の系譜 象徴天皇制への道』
伊藤晃著(社会評論社、2015年)
星出卓也
戦前においても、天皇は「国民統合」の象徴であった。「富国強兵」「欧米列強に肩を並べる一等国」という近代日本の象徴として、天皇や皇室の存在は国民を帰一させる役割を果たした。それは「理想・憧れ」としての象徴と同時に、「国民と一体となる」という情緒的な繋がりや一体感をもたらす象徴でもあり、記紀神話に基づく神々の子孫に連なる神的な存在としての天皇、更には神権国家としての「国体」観念は、情緒的一体感を更に強化するものであった。戦後は、目指す理想の在り方は変化しつつも、「国民と共なる」天皇象は明仁の時代で更に強化され、「国民統合の象徴」の完成度はより一層深化した。同書は天皇という象徴によって統合され一体なるものとされる虚構を問い、「個」たる主権者として責任を担う市民社会の在り方を考える。
『社会教育法解説 公民館の建設―社会教育の自由の獲得のために戦後民主主義への叫び』
寺中作雄著(現代教育101選、国土社、1995年)残念ながら絶版
星出卓也
同書は1946年に文部省社会教育局社会教育課長であった寺田作雄が、日本国憲法が市民の血肉となり、国民が主権を獲得するために市町村レベルでの社会教育、それを担う公民館建設の重要さを記した書の復刻版。10月13日に9条俳句裁判さいたま地裁勝訴判決が出たが、本来の公民館という存在が担う重要な理念を現代にて読み直したい。
『ショックドクトリン・惨事便乗型資本主義の正体を暴く』(上)(下)
ナオミ・クライン著(岩波書店)各2,625円
星出卓也
ショックドクトリンとは 事件や戦争や天災等のショックによって民衆が冷静な判断を下せない状態に乗じて (またはそのような状態を意図的に引き起こして)、 今まで通らなかった法案や政策をどさくさにまぎれて通す、火事場泥棒的手法のこと。 米国政府や企業がいかにこの方法を科学的に研究し利用してきたかを緻密に歴史的に分析する。
『新・現代アフリカ入門』
勝俣 誠 著(岩波新書)
中山弘正
明学大・国際学部スタッフ。 1991年に『現代アフリカ入門』を同じ岩波新書で出されてから22年ぶり。 アフリカの専門は大変貴重。実際は、1970年にアフリカと出会われた、 というので、40年以上。 本書の写真は何年と書いてあるので、 それを見ただけでも何10回も歩いておられることがわかる。 「考え、変えようとする市民」がこの「南」でも生まれてきている。 時代の不正・不条理と戦う人々こそが 「変えるアフリカ」を報じ、論ずる。
『信仰の良心のための闘い 日の丸・君が代の強制に抗して』
いのちのことば社・21世紀ブックレット
星出卓也
2011-2012年に大阪と東京で3回開かれた 「君が代強制反対キリスト者の集い」の講演集。 6名の講師方が君が代強制に問われている信仰の課題を洞察深く語っている。 法令遵守という装いに隠れて、別な神への礼拝が強制されていること。 御言葉に背かせようと脅かす霊的な戦いに対して、 日本の教会が御霊によって堅く立って、 唯一の神のみを礼拝する証しに生きるようにというに、 との励ましを呼び掛けている。
『砂川事件と田中最高裁長官 米解禁文章が明らかにした日本の司法』
布川玲子、新原昭治 著(日本評論)
星出卓也
1959年日米安保条約交渉の真っただ中、伊達判決を葬るために、いかなる作戦が秘密裏に進められたか。田中最高裁長官が米国と交わした裏約束等を米国解禁文章から発掘する。2013年発売。
『戦後史のなかの「国家神道」』
山口輝臣篇(史学会シンポジウム叢書、山川出版、2018年10月20日)
星出卓也
2017年史学会大会シンポジウムを基に編集され、近現代史、宗教学、政治史の観点から幅広く国家神道が論じられ、第3部「「国家神道」のこれから」(島薗進氏)では、これからの「国家神道」をどうするかが論じられている。「国家神道関連年表」「国家神道主要参考文献」などの付録の資料が充実していて便利。4320円(税込)
『ソ連農業 集団化の原点』
高尾千津子著(彩流社)4,500円
中山弘正
「ソヴィエト体制とアメリカユダヤ人」とサブタイトル。 永年、ロシア・ソ連の農業問題を研究してきた者として、 「ユダヤ人」が大きな役割を果していたとは驚きであった。
『TPPが日本を壊す』
廣宮孝信著(扶桑社新書)
星出卓也
TPPは日本の農業を壊滅する。これは事実。
しかし事は貿易問題に留まらず、あらゆる経済活動に及び、
巨大企業が国内の全法律を凌駕して有利な取り決めを行える仕組みである。
とかく国対国の貿易問題としか理解されていないTPPだが、
実はあらゆる国民の権利を保護している法律をなぎ倒しに出来る恐ろしい代物。
知らなかったでは遅い。
DVD『オレの心は負けてない・在日朝鮮人慰安婦宋神道のたたかい』
在日の慰安婦裁判を支える会 1,800円
星出卓也
慰安婦被害者に対する謝罪請求訴訟を闘った宋神道(ソン・シンド)氏を追ったドキュメンタリー。 訴訟を通して人間への信頼を取り戻してゆく姿が温かく描かれている。 2003年最高裁上告棄却判決にも関わらず、宋から人としての尊厳がより輝いていくのが印象的。 「火が燃えていたら消すのが本当だべ。小泉は、なして火の玉抱いて、火の中飛び込むようなマネすんだ。」(自衛隊イラク派兵決定時) 「戦争は国のためじゃなくて、しないのは自分のためなんだから。」
『「天皇機関説」事件』
山崎雅弘著(集英社新書、2017年4月19日)
星出卓也
「天皇機関説」を主張した美濃部達吉氏に対して、天皇を崇拝する退役軍人や右派政治家の攻撃が始まったのが1935年2月。以後約半年の短い期間で機関説排撃運動は、美濃部氏個人の排斥に止まらず言論や学問の自由すらも奪い、立憲主義は崩壊、権力の暴走を止める安全装置が失われた。本書は同事件によって社会が壊れてゆく昭和の分岐点を描く。それは現代と驚くほどに酷似する。
『なぜ教会は社会問題にかかわるのか Q&A』
日本カトリック司教協議会 社会司教委員会・編(カトリック中央協議会(2012.2.15)発行)
村瀬俊夫
現代日本のカトリック教会の関心と動向を示す注目の書です。今年は第二バチカン公会議開会から50年に当たりますが、同公会議以後のカトリックの変革がどれほど本物であったかをうかがわせてくれる好著であると思います。プロテスタント諸教会も、謙虚に本書から学ぶべきでしょう。第一部「なぜ教会は社会問題にかかわるのか」にQ1からQ14まで、第二部「教えに照らした具体的行動の根拠」にQ15からQ33までを当てています。例えば、第二部のQ19は<司教団は「非暴力を貫き対話によって平和を築く」ことを訴えています。しかし、自国の安寧・平和を守るため、軍備は否定できないのではないでしょうか?>、Q21は<「戦没者」追悼のため、総理大臣が靖国神社に参拝することをどう考えたらいいでしょうか?>といった〔私たちから見ても〕重要な問題を扱っており、それぞれ適切な答えが提示されているのを見るでしょう。(B6版144頁、本体価格600円)。
日中韓3国共同歴史編集委員会『新しい東アジアの近現代史』上下
日本評論社刊 各2,500円
中山弘正
素晴らしい立派な試みだ。 「未来をひらく歴史」で、上巻は「西洋による衝撃と東アジア伝統秩序の動揺」から 「冷戦体制崩壊後の東アジア」まで8章、下巻は「憲法、鉄道、学校教育」などテーマごと9章を展開。 相互の歴史認識の葛藤の解消、平和への気運の醸成が目指された。 6年を超えた試みという。
『日本が売られる』
堤未果著(幻冬舎新書、2018年7月4日)
星出卓也
2017年2月、森友問題で籠池氏の国会証人喚問で注目を集めている、丁度その時。マスコミが一切報道しない中で、とんでもない法案が成立していた。その名は「主要農産物種子法廃止法案」。モンサントのような強大食品メジャーが、世界中の種を支配できるようになる法案であったため、別名「モンサント法」と呼ばれていた。また先の12月10日に閉会した臨時国会でも「水道民営化法」が成立。これぞ「貧乏人は水を飲むな法」と呼ばれ、日本が誇る水道インフラを外資に売り渡すもの。同種の法律の成立を許してしまった各国は、恐ろしいほどに水道料金の値上げに苦しんでいる。この本を読むと、こんなのは序の口であることが分かる。農地が、森が、労働力が、そして医療が、老後が売られて行く。こんなことが全く報道されない中で、静かに、誰にも注目されずに進行。皆が気付いた時にはもう遅い。どうしてこんな深刻な問題を、新聞は報道をまじめにしないのか。堤氏は、この強大な動向に抵抗し、立ち向かう術を提案している。この書を読むと、今国会で行われていることが手に取るように分かる。知らなかったでは遅い!
『日本近代史に見る教会の分岐点』
岩崎孝志著、朱基徹牧師記念の集い編(いのちのことば社、2015年)
星出卓也
日本の教会はなぜ神社参拝を行ったのか?
71年前の日本の教会の歴史を丹念に紐解く時、日本の教会が、
まるで小さな靖国神社のように戦争推進の役割を果たしたことを知らされます。
聖書の言葉も利用して若者たちが戦場に出てゆくことを励まし、
教会の中で勝戦祈祷会を開き、主の御名によって集まる礼拝は、
国旗掲揚で始まり、宮城遥拝が続き、そして讃美歌も軍歌のようになった。
同書は、これらの事実を検証するだけでなく、
教会がこのように変わり行くまで実に長い前史があり、
曲がり角となる場所がいくつもあったことを正確に検証します。
神社参拝や天皇の拝礼は、キリスト教信仰とは何ら矛盾しない。
この欺きを教会が丸呑みする分岐点がやはりあったのです。
また、教会は社会的なこと、政治的なことに関わらない、と無関心であり続け、
やがては国策を的確に批判する目そのものを失って、
国策を無批判に推進し教会を挙げて戦争推進に総動員させるようになる分岐点があったのです。
それらは過去のことながら、今を生きる教会に、重大な警告を伝えています。
著者の岩崎孝志先生は、歴史を正確に分析する賜物だけでなく、
そこから霊的な課題を見抜く深い洞察を持つ方でした。
一つ質問をすると、かならずそのテーマで執筆された論考を送ってくださいました。
その都度、師の博学と同時に、教会を愛し教会に仕える情熱に圧倒されたことを覚えています。
日本の教会がどの時代にあっても本当の主を告白する教会として生きることができるように。
この情熱に生涯取り組まれて、あっというまに天に召されてしまいました。
先生は次の世代の教会にしっかりとそのメッセージを託したと思っています。
戦時下に至る長い歴史を知るごとに、まさに今とそっくりであることに驚きます。
今をしっかりと信仰に生きるために、深く掘り下げた岩の上に家を建てるために、必読の書です。
『日本人の戦争』
ドナルド・キーン著、角地幸男訳 (文春文庫)
中山弘正
昨年、日本国籍を取得し、日本永住を決めた1922年生れのアメリカ人。サブタイトルに「作家の日記を読む」とあるように、「開戦の日」から「玉音」などを経て、「占領下で」までの10章の展開は、永井荷風、伊藤整、高見順、山田風太郎など「作家」たちの戦時下の日記をもって、その時々の日本人のいろいろな感情・気持ちをつづったものである。キーン氏は、いろいろな一般の庶民のことばや考えはほとんど用いていない。「作家」たちはそれらを端的に代表していると考えていた。 伊藤整は、開戦の報を聞いて「今後何年続くかも知れぬ大和民族の歴史上はじめての、そして最大の」戦争、「大和民族が、地球の上では、もっともすぐれた民族であることを、自ら心底から確信するためには、いつか戦わなければならない戦いであった。」(27-28頁)等々。「特攻隊」のことも「日本民族の至高の精神力の象徴」と(80頁)。高見順は「玉音放送を」を聴いて「なんだかポカンとした気持だった。」(136頁)と書す。少し前の平野啓一郎という作家との対談も付いている。
『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』
想田和弘著(岩波ブックレットNo.885、2013年)
星出卓也
筆者は日本の民主主義が瀕死状態になっている主因を
主権者である市民の受け身体質に見る。
消費者のように政党を品定めし、
気に入らなければ買わない(選挙に行かない)。
憲法の保証する自由を市民自らが
不断の努力で獲得する使命を呼びかける。
日本・中国・韓国3国共同編集『新しい東アジアの近現代史』上下2巻
日本評論社刊 各2,500円
村瀬俊夫
筆者は11月24日(土)、韓国YMCAで開催された第11回「歴史認識と東アジアの平和」フォーラムに参加した。 このフォーラムが11年前の2002年に南京で開かれたのは、日本における新しい歴史教科書の出現が契機であった。 以後、中日韓の順に会場を移してフォーラムが続けられてきたのは、 日中韓で何とか歴史認識を共有できる近現代史の教科書をつくりたいためであった。 その成果の最初の実が、2005年に刊行された『未来をひらく歴史 東アジアの3国の近現代史』(高文研刊)である。 でも、それは3国の立場や主張を並立しているだけで、共通の歴史認識を示すには不十分であった。 その問題点を克服するため、さらに日中韓3国共同歴史編纂委員会が6年間の努力と研鑽を重ねて、 ようやく日の目を見たのが標記の2巻である。 上巻は「国際関係の変動で読む未来をひらく歴史」との副題を付した全8章からなる通史で、 日中韓の執筆者が二つか三つの章を分担している。 下巻は「テーマで読む人と交流」と副題が付されているように、通史では扱えない民衆の生活と交流をテーマ別に叙述している。 そのテーマは、憲法、都市化、鉄道、移民と留学、家族とジェンダ、学校教育、メディア、戦争と民衆の八つで、 最後の9章が「過去を克服し未来へ向かう」となっている。東アジア共同体の形成には共通の歴史認識が不可欠であり、 それを培ってくれる貴重な教材として大いに活用されてほしい。
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
矢部宏治著(集英社インターナショナル、2014)
星出卓也
沖縄本島面積の18%(ほぼ2割!)を米軍基地が占拠している事実に驚いていたら、
上空の米軍支配管制空域は、ほぼ100%。
事は空域の問題だけでなく、2004年の米軍ヘリ沖縄国際大学墜落事故のような
米軍に関わる事故がひとたび起こると、そこは治外法権の場所に変わる。
米兵が起こす犯罪の取り締まりも裁判権もしかり。
しかしこれは「沖縄の現実」と思っていたら、実は日本全土、
今も法的に同じ状態なのである。
日本国憲法よりも日米地位協定の方が上位にあり、国民主権は建前で、
現実には日米合同委員会の意向に政府も官僚も従う。
この歴史を本書は探究する。
その始まりは驚く程に古く、その仕組みは恐ろしく巧妙であった。
『年表 昭和・平成史1926-2011』
中村正則・森武麿編 (岩波ブックレットNo.844)本体価格 640円
村瀬俊夫
裏表紙に刷り込まれた言葉が、本書の特色をよく示している。<激動の「昭和」64年間と「平成」15年までの政治・経済・社会の主要な出来事を、1年1頁でコンパクトにまとめて定評のあった『年表 昭和史 増補版』に、2011年までを加え、新たに『年表 昭和・平成史』とした。戦争から高度成長、そして東日本大震災まで、次代の動きが一目で分かる。> 年表が大事なことを西川重則代表から篤と教えられているが、これは本当に重宝な年表である。前のものを愛用していた私は、早速これを購入して前のもの以上に愛用し始めている。
『平和憲法の深層』
古閑彰一著(ちくま新書)
中山弘正(1938年生)
私より5才お若い。すでに多数の著書のある方だが、
「憲法九条の深層」など5章から成り、
「深層から見えてきた『平和』」というしめくくりの章に向けて、
沢山のことを学ぶことができる。
『本当は憲法より大切な日米地位協定入門』
前泊博盛編著(創元社「戦後再発見双書②」2013年3月)1500円+税
星出卓也
戦後日本国の根幹となっている法律は、 日本国憲法であると誰もが信じてきた。 ところが実際に憲法よりも上位の法体系にあるものとして 「日米地位協定」が戦後日本の日米関係を規定し続けてきたことを本書は明らかにする。 たとえ国民全員が米軍基地に反対したとしても、 この日米地位協定がある限り、 在日米軍に関するアメリカ政府の方針は変えることもできないし、 意見することもできない。 外交圧力だけではなく、法的においても在日米軍に対する日本の地位は、 戦後一貫して属国的地位にあったことを、本書は分かりやすく解説している。 なぜ、米軍兵士が犯罪を犯しても、日本政府は逮捕もできないのか。 すべての謎が、見事に解ける。
『マンガ 日本人と天皇』
雁屋哲著、シュガー佐藤画(いそっぷ社、2000年、講談社文庫、2003年)
星出卓也
マンガと思って侮るなかれ。天皇制がこの日本の社会に今も恐ろしい影響力を持っていることをスルドイ視点で描いている。教育勅語の歴史、明治政府によって創り上げられた記紀神話を基に創り上げられる皇国史観を的確に指摘し、戦後の日本社会においても人々の内なる天皇制として生き続けているメンタリティーに警鐘を鳴らす。マンガなので大変読みやすいのも嬉しい。
--- 準備中 ---
『領土問題をどう解決するか』
平凡社新書 800円
中山弘正
東大の社会科学研究所に永年勤められたロシア史の大象。 『北朝鮮現代史』(岩波新書)に続いて、北方四島のことを、 例えば「日ソ交渉史は冷戦のドラマであった」(第5章)等々7章にわたって詳しく展開。 さらに最近ホットな「竹島・尖閣問題」に1章。 全体として「対立から対話へ」と。地図、文献、年表も詳しい。ぜひ御一読を。
『ルポ良心と義務ー「日の丸・君が代」に抗う人々』
田中伸尚著 (岩波新書 赤版1362)798円
中山弘正
以前にも岩新で『靖国の戦後史』『日の丸・君が代の戦後史』が出ている。「いま、大阪で」から始まり、「法制化13年の攻防」、裁判、不服従の多様なスタイル、市民・生徒たちの抵抗、と進められている。実に多くの学校・人々を訪ね、詳しく聴いておられる。本当に多くの「闘い」が続いている。大変優れたルポと感じ、岩新編集部経由で感想を出したら、わざわざ一筆の「拝復」も頂いた。私より3才お若い。
『わが帝国海軍の興亡』
阿部三郎著 (光人社NF文庫)2012年6月、1000円
中山弘正
じつは私の父は海兵卒の海軍軍人だった。『一海軍士官の回想』(中山定義、毎日新聞社、1981年)があり、野村吉三郎ら「海軍良識派」の流れ、が自慢だった。戦後、海上幕僚長も務めた。それで私は海軍ものは割に読む。本書は「連合艦隊始末記」とサブタイトルがあり、著者も海兵卒だが航空兵だった方。太平洋戦争以降がざっと2/3を占めるが、その詳しさ、全体性で、これまでのどの「帝国海軍もの」より印象深かった。全9章だが、はじめの4章は日清、日露戦争を中心としている。太平洋戦争に入ってから、奇襲、運命、撤退、死闘、特攻と5章をあて、軍艦名、指導将官名なども、状況描写もそれはそれは詳しい。海軍といっても、飛行隊の活動、またレーダー等の利用などの点で、アメリカが常に日本の先を行っていたことが印象づけられる。著者はちらりと「キリスト教を尖兵とした欧米の侵略」といった本心も述べている。 母は私の後、50才過ぎで受洗していたが、父は80才過ぎに私の通っていた長老派教会で受洗。2人は別々の病院で同じ日に召天した。主の業は想像を絶する。